高松地方裁判所 平成4年(タ)33号 判決 1993年2月26日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
平成三年二月一二日付高松市長に対する届出によりした原告と被告との間の離婚は無効であることを確認する。
第二 事案の概要
一 原告と被告は、平成二年一月九日、中華人民共和国において婚姻の届出をした夫婦で、両名の間には、長女甲野恵(平成二年九月二九日生)がある(<書証番号略>、原告、被告)。
二 原告と被告は、平成三年二月上旬、離婚届に署名押印し、原告は、これを平成三年二月一二日、高松市長に対して届出、同日受理された(<書証番号略>、原告、被告)。
三 原告は、被告が離婚届への署名押印を執拗に迫るため、中華人民共和国において届出をしない限り離婚は効力がないものと考え、離婚届への署名押印をしたもので、離婚の意思はなかったから、右協議離婚は無効である旨を主張するのに対し、被告は、離婚の合意が有効に成立していた旨を主張する。
第三 判断
一 証拠(<書証番号略>、原告、被告本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
1 原告と被告は、平成二年一月九日、婚姻の届出をしたことから同居し、同年九月一七日来日したが、ささいなことで喧嘩が絶えず、長女甲野恵(平成二年九月二九日生)が出生した後も、原告の勤務状況などが原因となって、喧嘩を繰り返し、原告のほうから離婚を申し出たこともあった。
2 平成三年二月一一日ころ、原告と被告は、離婚届用紙に署名押印し、翌一二日、別居した。原告は、その後一〇日位で高松から大阪へ行ってしまい、以来一度も被告方を訪れたり、被告に会いに来たことはない。
3 被告は、その後、現在の夫である丁海慶と知り合って再婚し、長女とともに三人で暮らしている。
4 原告は、被告との婚姻生活を取り戻したいという希望は薄らいできたが、日本での在留期間を延長したいこと及び長女の親権を取り戻したいことの二つの目的で、本件訴訟を提起したものである。
二 原告は、被告が離婚届への署名押印を執拗に迫るため、中華人民共和国において届出をしない限り離婚は効力がないものと考え、離婚届への署名押印をした旨を供述するが、そもそも離婚届への署名押印をしたのに届出の意思がなかったというのは不自然であり、他に特別の目的があって離婚届への署名押印をしたとの合理的な説明もしないことからすれば、原告の右供述はにわかに信用しがたい。
かえって、前記認定のとおり、原告と被告に喧嘩が絶えず、原告のほうから離婚を申し出たこともあったこと、原告は、離婚届への署名押印後すぐに被告と別居して、高松から大阪に行ってしまったこと、以来一度も被告に会いに来てもいないこと、さらに日本での在留期間を延長したいため、本件訴訟を提起したとの原告の供述からすれば、少なくとも署名押印当時も、その一日後の届出当時も、原告に離婚の意思及び届出の意思が存在していたものと推認せざるをえない。
三 以上の事実を総合すれば、原告と被告の離婚に原告主張の無効原因はなく、原告の請求は理由がないものと言わざるをえない。
したがって、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 髙部眞規子)